社会変革ファシリテーターのボブ・スティルガー氏をお呼びし開催された「エンスピリテッド・リーダーシップ養成講座」。 開催前から多くの方に関心を寄せて頂きつつも、一風変わったタイトルに、「いったい何をする場なの??」との声も多く、謎に包まれていた本講座。遅くなってしまいましたが、開催のレポートをお届けしたいと思います!
講座の最終日、私たちは誰も想像していなかったような最後を迎えていました。参加者から全身の疲労が感じられ、重たい空気に包まれた一日目終盤。しかしその翌日の最後の時間、それぞれ思いの丈を述べる参加者たちは、晴れやかな、凛とした表情をしていました。前日と明らかに違うその場は、なにか祝福されているような空気。まるで、2日間でそれぞれが薄暗い谷に踏み込み、冒険し、そして少し違う自分として帰って来たような印象を受けました。さてこの2日間、なにがあったのでしょうか。
そもそもまず、「エンスピリテッド・リーダーシップ」って何?という声がきこえそうです。これは、ボブがこれまで世界中で出会って来た、様々な地域で本当に効果のある活動をしているリーダー達のあり様を、「エンスピリテッド・リーダーシップ(魂を吹き込まれたリーダー シップ)」と名付け、体系化したものです。強い思いと使命感をもって活動するリーダー達を見て来たボブが、「何が彼らに声をあげる勇気を与えるのか?」「どのような能力や習慣が身に付けばこのようなリーダーシップが発揮できるのか?」ということを学び、ボブ自身が実践し、そして世界に伝えようとしているものなのです。私たちは、このリーダーシップこそ、人が生来もっている個性を創造的に発揮してゆくための、そして足もとから地域や世界が良くなっていくための大きなヒントになるのではないかと感じました。そこで今回、日本の各地で、地域や社会のより良い未来の為に日々奮闘しているリーダーの方々、また自分の使命感や思いに基づき、一歩踏み出そうとしている方々と共に「エンスピリテッド・リーダーシップ」を学ぶ場を作ろう!ということで、この講座を企画したのです。
ボブスティルガーとは
ニュー・ストーリーズ共同代表、社会変革ファシリテーター、CIIS大学院博士。1970年代半ばからコミュニティ開発・変容のため会社を設立し、50名のスタッフとともに従事。アメリカで地域開発の仕事に従事した後、CIIS(カルフォルニア統合学研究所)大学院にて博士号取得。2005~2009年「リーダーシップとニューサイエンス」の著者、マーガレット・ウィートリーと共にベルカナ研究所共同代表。2000年、ニュー・ストーリーズ設立。地域や組織にイノベーションをもたらすファシリテーターとして、北米、南アフリカ、ジンバブエ、ブラジル、インドなどで活動。2011年の東日本大震災の発災後はたびたび来日し復興のための対話の場づくりに取り組んできた。AI、OST、Circle、World Cafe、Uプロセス、AoH等の手法を用いる。
2日間の様子をダイジェストでお伝えします。今回の講座の会場は、京都府京都市「職員会館かもがわ」。当日は、京都からだけではなく、関東、東海、四国など全国から、経営者、まちづくりアドバイザー、コンサルタント、NPO職員など多様な参加者が集まりました。多様な社会課題に取り組む中で活動や組織の運営に課題を抱えているリーダーや、まだ具体的ではないけれど、自分の中の使命感や思いに沿ってこれから一歩踏み出したい、といった人生の転換期にいる人など、それぞれ様々な背景を持っていました。
1日目の朝、それぞれの自己紹介を兼ねたチェックインからスタート。午前中は、3人組のグループを組みかえながらいくつかのワークを行い、この2日間を共に過ごす参加者たちがお互いを知り合う時間にあてられました。
ボブが投げかけたテーマは、「一体何があなたをこの週末、この場に連れて来たのですか?」「これまでの人生でどんな選択をしてきたのですか?」といった、話す本人が自分の内面に深く向き合うような問いが多く、まだ始まったばかりで様子見していた参加者も徐々に自分の深い思いを語り始めました。
ボブはまた、話すことだけではなく、今の時代にないがしろにされがちな「 ”聴く” こと」の大切さを語り、エンスピリテッド・リーダーシップを考える上では日本人が古来より持っている「傾聴力」が何より重要だと伝えていたのが印象的でした。ワークを終えた参加者たちからは、「話した人が魅力的に見えて、価値観を揺さぶられた」といった声や、「”リーダーシップ”を謳っている場なのに、あまり向き合いたくなかった自分のことをこんなに話すことになるとは」と戸惑う声も。
午後からは「エンスピリテッド・リーダーシップ」について学び、またそれを受け、私たちそれぞれのリーダーシップを探求する場に移ってゆきました。ボブからは、「エンスピリテッド・リーダーシップの6つのランドマーク」の話があり、エンスピリテッドなリーダーたちの主要な特徴として、ボブは6つの要素をあげました。
その後、ボブの話を受けて、私たち自身のリーダーシップについて話し合う対話のワークや、翌日に向けて、一人一人が本当に探求したいことを考え「問い」を出すワークなどを行いました。「私たちが何もしないことで、社会に生まれている損失は何だろう?」 「今、リスクを乗り越えて一歩踏み出したい自分には、何が必要なのか」それぞれの異なる背景から出された「問い」はとても多様で重みがあり、発表してゆく中で、場も熱を帯びてゆきました。
2日目は、今の感覚を身体で表現するボディワークのチェックインからスタート。午前中は、前日に共有した一人一人の「問い」について整理しなおし、ボブから「エンスピリテッド・リーダーシップの起源」のストーリーが語られました。そして午後にかけては、ワールドカフェとOST(それぞれ異なる種類の対話の手法)をしました。ボブは、参加者一人一人が探求したいこととして挙げた「問い」にたいして「この場は本当に豊かで、興味深い問いや意見が出されている」と言い、その問いをみんなでさらに探求する時間が用意されました。
そして、起こり始めたこと。2日目の途中から次第に空気が変わり始めました。参加者が、どうすれば残りの時間をより実りあるものに出来るかを考え、場の進行に意見を出し合ったり、より参加者の主体性によって進められていくようになりました。そして、話したいテーマごとに個別で対話するOSTでは、それぞれが情熱を持って語り合い、会場の熱もピークに。対話の中で、それぞれの思いや知恵が化学反応が起こるように混ざり合い、豊かな気づき、学びが生まれたようでした。
2日目も佳境となり、ここまでの「みんなで探求する」場面から一転、「ひとりで沈黙する」時間がとられました。場所は会場近くの鴨川。1時間ほど、それぞれ自由に歩いたり座ったりして、沈黙の時間を過ごしました。ここまでの時間を過ごして今、何を感じているのか。自分にとって何が本当に大切なのか。たくさんの深い問いの探求の後で、多くの参加者が混沌の中にいたこの時、自然の中で一人になることで、自分なりの次のステップを導きだす時間になりました。
鴨川のソロウォークから帰ってくると、最後のワーク「ナウキャスト」がありました。「ナウキャスト」はボブの最新の対話の手法であり、「未来」でも「過去」でもなく「今」に焦点を当てて、次の一歩を導きだす対話のワーク。参加者は最後の集中力をもってワークに取り組み、一人一人やこの仲間達との次の一歩が話されました。ワークの中で関係が明らかに変化した人々もあり、最初は互いに違和感をぶつけ合うところから始まって、途中で心が通じ合い、笑い声をあげるほど打ち解け合う姿も…。共に過ごす時間を通して参加者の間には深い信頼関係や連帯感がうまれていったようでした。
そして、いよいよ最後のチェックアウト。情熱と気力、体力を丸2日そそいだ参加者達。ここまで探求したことは、全てに答えが出る訳ではないものの、ここで学んだこと、探求したこと、感じたことが、今の時点でそれぞれが信じる答えに昇華されていったような気がしました。「ボブが、鋭く新しい風を吹き込んでくれた」そんな声もきこえました。晴れやかな表情から、これからそれぞれまた、見えない未来に進んでいく勇気と覚悟のようなものが感じられました。そして、そんな一人一人を祝福するような拍手と共に、会が閉められました。
終了後、参加者から聞かれた声や、後に行ったヒアリングの声を一部紹介します。
今回、ホスティングチームで「この2日間は一体何だったのか」ということを振り返った時に、「それぞれが、本当の意味で「自分は誰なのか?」ということや、何に対して自分の魂が揺さぶられ、心に火がつくのかをみつめることができた時間」だったのではないかと話していました。
初めに参加者の多くが「ボブに興味があって来ました」と言った時、ボブは照れながら、「僕と一緒にいると、ありのままの正直な自分になれると言う人が多くいる。だからみなさんは僕に興味があるんではなく、自分に興味があるんだと思うよ」といいました。 その通り、ボブは私たちに、豊富な経験や知識の提供とともに、一人一人の内側にあるものを表現し合い、探求してゆく、神聖なスペースをつくってくれました。
ボブはどんな場でも、徹底的にその場に耳を傾け、その都度本当に必要なものを選んで場をつくっていきます。そのため、私たちも当日になるまでどんな場になるか分からず、参加者自身も途中「どこにむかっていくのだろう?」と戸惑う場面もあったかと思います。しかし、予定調和を超えたところに、私たちの本音に出会える本当に必要な時間があったように思いました。
そして、大きかったのは個々人の学びだけでなく、今回つながりあった仲間の存在。自分の内側の声に従って行きてゆく道は、時に孤独。そして、間違った方向に偏ることもあります。そんな時に共に立ち止まり、導き合える仲間がいることは、何より心強いものです。今回繋がり合った参加者さんたちは、講座後さっそく、ボブの著書の読書会を2回開催するなど、学び合い支えあうコミュニティとしての輪が生まれており、主催側としても嬉しく思いました。
そして実は、私たち主催者メンバーとボブも、この学び合いの輪を広げていきたいとの思いで、第2回の「エンスピリテッド・リーダーシップ」の場を開催することを決定しました!第2回につづきは第3回も参加者の有志メンバーが実行委員会を結成し、中心になって企画を進めています。こうして、参加者側の人が企画者にまわり、自発的に発展してゆくのも素敵ですね!今回来られなかった皆さんも、この特別な場で、是非次回以降に出会えることを願っています!